Cycle Peugeot Museum

Peugeot PE10 DW

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レストアの依頼で持ち込まれた80年代のプジョー。
モデル名が判らなかったのでカタログを調べたところ、おそらく"Aubisque"(オビスク)の名で知られる1980年代中期のモデル "PE10 DW"だろうと見当がつきました。 但し、ここに掲載した自転車とカタログ上のAubisuqueとではフロントフォークの形状とカラー、それにシートチューブにあるライオンの位置が異なるので、あくまでも推測に過ぎません。

フレームに「12 Vitesses」とあるので、これをモデル名と勘違いされている方もいるようですが、たんに「12 speeds」という意味です。








溶接跡のないチューブの継ぎ目、楕円形の集合ステイ、最上部の直径が若干縮小されているシートチューブ等のフレームの特徴から、なにか特殊な素材・技術が使用されているんだろうと考え調べてみました。 その結果、「HLE」・「INTERNAL BRAZING」という二つのキーワードに辿り着きました。

"Made in France"のステッカーは、フランス自転車業界の古き良き時代を思い起こさせます。
90年代に入り、サイクルズ・プジョー社はプジョーの商標をサイクル・ヨーロッパに貸し出し、ヨーロッパ社は台湾でプジョー・ブランドの自転車の生産を始めました。 この新時代のプジョーは、フレンチ・プジョーの品質を知らない若者の間で高い評価を得たようです。








HLEについて

「HLE」はサイクルズ・プジョー社が開発した特殊な合金(Micro alloyed steel)で、マンガン・ニオブ・アルミニウム・カーボン・チタニウム等、通常航空機に用いられる素材から構成されています。 サイクルズ・プジョー社によれば、上記の素材を用いることで金属の機械的特性が大幅に改善され、通常のフレーム・チューブよりも軽量(フレーム重量を7オンス/199g削減)かつ頑丈なものになったということです。


HLE TUBING (From a catalog of Peugeot)

HLE is Peugeot's exclusive alloy tubing. It is a “micro alloyed steel” which is composed of Manganese, Niobium, Aluminum, Carbon and Titantium, which offers a lighter, yet stronger frame. These elements are commonly used in the production of aeronautical steel. The introduction of these elements results in a steel with dramatically improved mechanical properties when compared with more conventional steel. The strength to weight ratio of HLE tubing is far superior to that of conventional tubing. Using this tubing enable Peugeot to save more than seven ounces in the weight of frame. The HLE tubing, when used with our patented internal brazing system, gives Peugeot a frame which is at the top of its class in performance and reliability.








INTERNAL BRAZING

サイクルズ・プジョー社が特許をもつ低温溶接技術で、「INTERNAL」という言葉が用いられていることから、おそらく丸紅山口のスーパーウェルディング工法と同様に内部からのロウ付けされたものだと思います。

サイクルズ・プジョー社によれば、低温溶接によりチューブの機械的特性を維持しながら、重量と強度という相反する要素をベストなかたちで両立させることができるということです。

サイクルズ・プジョー社は当時、溶接跡が無くかつ強力な接合力を有するラグレス・フレームの開発に力を入れていたようで、「特別なフライス盤を用いてチューブ同士を正確に接合した」と説明しています。

また、ラグを用いないこの工法によりフレーム重量が劇的に削減されたということです。


NTERNAL BRAZING (From a catalog of Peugeot)

Lightweight bicycle frame are usually brazed. The low heat brazing technique preserves the mechanical properties of the tubing, and therefore provides the best possible compromise regarding weight and strength.
Cycles Peugeot's lead in the technological field increased after the development of brazing process for lugless frames with seams that are virtually inseparable. Unlike other manufactures who simply press cut their tubes, Peugeot uses a special milling machine to miter the ends of the tubing to exact tolerance. Finally, after the tubing is prepared, it is fitted precisely on the jig and INTERNALLY BRAZED. This process allows the tubing to be strongly joined without requiring the added support and weight of lugs. The result is a bicycle with a clean finish, superior strength, and an incredibly low weight.









ZACHS HURET

ZACHS HURET は、1895年に設立されたドイツの自転車パーツメーカー Fichtel and Sachs 社(フィヒテル・ウント・ザックス)のブランドです。
1980年、F&S社はイタリア・日本との競争で疲弊していたユーレの経営支配権(経営を支配できる株式比率)を買収し、徐々にユーレ・ブランドをザックス・ユーレに変えていきました。 この間、F&S社はセディス、マイヨールといった他の仏メーカーをも買収しています。

注:情報源の文面から判断すると、F&S社は株主としてユーレをコントロールしていたようで、いわゆる吸収合併によりユーレという会社が消滅したわけでない。

1987年、ドイツの Mannesmann 社(マンネスマン)がF&S社の多数株主となり、F&S社の経営改革に乗り出しました。 その一環として、「ザックス・ユーレ」というブランドは元のシンプルな名称「ザックス」に変更され、ユーレという名称は1991年に消滅しました。 なお、この「消滅した」という言葉がユーレという会社そのものの解散を意味しているのかは不明です。
1997年、マンネスマン社はF&S社のザックス・ブランドの自転車部品に関する権利をSRAMに売却しました。

1980年代のプジョーのカタログを見ると、上位機種は従来通りサンプレックスの変速機セットを使用していますが、下位機種についてはユーレ(又はザックス・ユーレ)を採用しています。 なお、この時期プジョー社はサンプレックスの衰退(注)に伴い、カンパニョーロ・サンツアー・シマノ等様々な変速機を採用していました。

注:Simplex (サンプレックス)は、80年代に入りイタリアのパーツ・メーカー Gipiemme (ジーピエンメ / 発音はイタリア人に確認済み)向けの製品を生産していました。

主な情報源は下記ウェブサイトです。
http://www.disraeligears.co.uk/Site/Sachs-Huret_derailleurs.html

SPIDEL(スピデル / 発音はフランス人に確認済み)

SPIDELは70年代後期から80年代初期にかけて販売されていた仏パーツ・メーカーの統一ブランドで、カンパニョーロのグループ・セットやシマノのコンポーネント・パーツに対抗するために創られました。 マファック(ブレーキ)、ストロングライト(クランク)、サンプレックス(シートポスト・ディレーラーセット)、アトム(ペダル)などで構成されていました。








製造番号は「Y607 16404」。80年代のモデルなので、接頭辞+8桁です。接頭辞の意味は未だ不明です。

Owner of bicycle in photos is Mr.Oshi.






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