Cycle Peugeot Museum

G-50 Restoration

home





プジョー・レストア計画

  当初、PX10E(67年製とは別のPX-10)をレストアする予定でしたが膝を痛めてしまい断念。そこで思案した結果、急遽別のフレームを探すことに・・・。

肝心のフレームはまだアメリカにあって、現地のディーラーと交渉中。 「そいつを日本に送ってくれ」と言ったら、「真剣に言ってるのか?えらく高くつくぜ」と驚いていました。 つまり、自転車代よりも輸送費の方が高いという意味で、「何だってこんなガキが乗るようなボロ自転車にそんな金を出すんだ?」と訝しんでいたわけです。
「Yes, I'm serious !」 と答えたら、「気の毒だから」と言ってタイヤを新品にして送ってくれることになりました。









Peugeot G-50

70年初頭にリリースされたジュニア・モデル、24インチです。 ジュニアといっても欧米のJrですから、中学時代に前から3番目に並んで、 そのまま発展から見放された日本の成人には適切なサイズだと思います。ちなみにシートチューブ・サイズは490mm。

注:カタログ写真は、Bike-boom Peugeot 様のウェブ・サイトより拝借致しました。 なお、このサイトに掲載されている日本のカタログは僕が提供したものです。

<検分>
バー/300mm 子供サイズ, クランク150mm 子供サイズ, シフト・レバー/片方折損, ペダル/なし, サドル/使用不可, フレーム及び各パーツ/深刻なサビと汚れ。 ふむ、やり甲斐があるってもんです。 






コッターピンの分離

レインボー・アリーナでの安藤美姫選手のエキジビションに関する記事を読みながら、クランクに固着したコッターピンの取り外しにかかりました。 方法はいたって単純で、ドリルを使用してピンの中心をくり抜きます(下記参照)。 ハンドクラフト用のおもちゃのようなドリルを使用したので、半日以上を費やしてしまいました。

The future is not a gift, it is an achievement.(未来は与えられるものではなく、勝ち取るものだ。/ ロバート・ケネディ)
安藤選手の優美さは、多くの困難を克服する過程で自ら築き上げてきたものなのでしょうね。 心から敬意を表します。

2013年12月23日、安藤選手が引退を表明しました。これまで華麗な演技で日本人に夢を与えてくれて、有難うございます。 でも、ひとつ時代が終わったようで寂しいですね。






<追記:コッターピンの外し方>

数年後、PX50のコッター・ピンを抜いたときは、写真のように450ワットの本格的なドリルとBikesmithのコッタープレス、それにハンド・ドリルという最強の陣容で臨みました。
コッタープレスは、わずか2分で片方のピンを押し出しました。もう片方は固着していて、注油・ハンマリング・コッタープレスの組合せでもびくともしませんでした。

(注:ハンマリングはピンを叩き出すために使うわけではなく、固着状態を緩和するためにトントンと軽く振動を与える程度に、数時間程度使います。 もし強打したら、BBのベアリングが割れてしまう可能性があります。 もっとも、台湾の自転車買収業者はもっぱら強打方式を採用しており、「別に問題はないよ」と言っていましたが。)

そこで、最もシンプルにして確実な解決方法、つまりドリルを使用することにしました。 これは、学生時代に技術・家庭の先生から教わった有難い知識に基づいた方法です。 つまり、「円柱形の物体がくさびとして使用されている場合、圧力は周縁から中心に向かって均等にかかる。だから、円柱の中心部をくり抜いてやれば周縁の圧力は弱まる」というものです。
なお使用したドリルは、前回のハンドクラフト用とは異なりかなりパワフルです。手順は以下の通りです。

1.ポンチでコッターピンの頭(ネジとは逆の方向)の中心に小さなクボミをつくります。ハンマーで、ポンチを軽くタンッと1回叩けばOKです。

2.径4mmのドリルの先をクボミに押し当て、70%くらいの回転で掘り進めます。 ドリルが斜めに入って行かないよう垂直にドリリングする必要があり、ある程度慎重を要する作業ですが、それでも15分程度ででピンの頭からクランク軸中心あたりまで到達しました。

3.今回は、ピンの半分ほどのところでカチカチという硬い手ごたえがありました。つまり、ドリルがピンのテーパー面から露出しクランク軸に接触し始めたということなので、手動のドリルに切替えてさらに2mm程掘りました。 (注:これは、ドリルの穴が中心からテーパー側にずれたことで起こりました。なおクランク軸は硬い材質で作られているので、無傷でした。)
4.最後に、コッター・プレスでピンの反対側(ねじの方)から軽くピンを押し出します。

5.用意した新しいピンは胴体部分が長すぎたので金切ノコで頭の方を4mmほどカットし、切断面をヤスリで滑らかにします。
6.コッター・プレスでピンを押し込み、作業終了。


Bikesmith はアメリカミネソタ州の加治屋さんで自転車工具を作っています。 「コッタープレスが欲しいので、Paypal を通じて請求書を送ってくれ」とメールを送ると、6時間後に返事が届き、その3時間後には発送してくれました(5日後到着)。 コッター・ピンもここで購入できるようです。

Bikesmith Design and Fabrication.






ホイール分解・組付け

ホイールを分解して、スポーク1本から研磨。終わったら、またホイール組み。面倒なように見えますが、これは結構楽しい作業です。 ベアリング及びフリーホイールの状態は良好(写真左)。

REGINA/ATOM用フリー・エクストラクター(写真右)。フランス・パーツを扱う者の鉄則:パーツを買う前に工具を探せ!






Simplexスポーク・ガード/ATOMフリー

ジュニア・タイプとはいえ、やはりプジョーですね。良い部品が付いています。

プジョーに限らず、70年代の自転車は全体的に手抜きがなく、メーカーや企画担当者の自信と誇りを強く感じることができます。 こういう古い、しかも低価格の自転車が現在でも使用可能な理由も、その点に求めることできるでしょう。
上記の傾向が揺らぎだしたのは、第二次オイル・ショックの影響で諸物価が高騰し始めた頃でしょうか。 今から思い返すと、この頃に物づくりということに関する人々の意識、つまり職人気質のようなスタンスが変わった(消えた)ような気がします。






ホイールの仮組み及び振れとり

磨き上げたハブとリムをスポークで連結して振取り台に設置。
この当時はテンション・ゲージを持っていなかったので、勘のみに頼ってホイールを組んでいました。 リムが新品で歪みのない場合はそれでもほとんど問題ありませんが、中古の場合はやはりテンション・バランスに気を配る必要があります。






フランス製コッタード・クランク

アメリカから取り寄せた仏製Nervarのクランクです。日本ではほとんど知られておらず、僕も現物は初めて見ます。
手にとってまじまじと眺めていると新たな発見をしました。フランス製コッターピンの規格は9.0mmというのが世界の常識ですが、これに付いているのは9.5mm標準規格なのです。 9.0mmのピンは世界中探してもなかなか見つかりませんが、9.5mmが使用できるのなら話は簡単です。早速、手持ちのピンを工具箱から引っ張り出して削りにかかりました。 10分くらい削って現物に挿入、クランク軸との当たり具合を確認して、また削りにかかるということを幾度も繰り返してようやく完成。1本あたり1時間ってとこです。

なお、手元に9.0 mm のピンが多少残っています。どうしても必要という方のみですが、メールで連絡して頂ければお分けします。 価格は500円(1本)です。タイからの送料は数百円程度だと思います(重さによります)。



ようやく完成!

試走をかねてちょっとばかり走ってきました。感想は、「この自転車を理解するには、けっこうな時間がかかる」というものでした。
写真を見れば判ると思いますが、この自転車は、シートチューブとヘッドチューブがやたらに寝ていて、フォークのカーブが深くなっています。 また、クランク軸と後輪のハブ軸間の距離も長くなっています。 これはPX-10系の競技モデルを除いたプジョー・フレームの大きな特徴のひとつで、一般には「Comfort bicycle」と呼ばれています(後二者については、PX-10も同様)。 悪路や石畳の多いヨーロッパにおいて、走行中の安定性と快適性を獲得するために設計された形で、実際、長距離走行ではすばらしい乗車感覚を提供してくれます。



とはいえ、全体がコンパクトに仕上げられているためか、PX-50とはちょっと異なった印象を持ちました。 まだ、「ペダルの位置が通常の自転車より前方にあるかなあ」という漠然とした感じでしかありませんが、 そのせいで伸展筋である大腿四頭筋(太腿の表側)にかかる負荷の幾分かが屈曲筋である大腿二頭筋(太腿の裏側)の方に移っているように思いました。 これは、発育途上の身体のある一側面に負荷を集中させないという点で、よく配慮された設計というべきでしょう。

ちなみに、ヒル・クライムでロードレーサー(27インチ)やランドナー(26インチ)と競争してみましたが、速さ・安定性に遜色はありませんでした。 また未舗装の山道を駆け下りてみましたが、ホイール、フレーム共にびくともしませんでした。「ジュニア・モデルでこの品質か」と感嘆するほどの完成度です。

inserted by FC2 system